君がいて、僕がいて 〜Vol1.日常が変わる時〜

プロローグ  =Side Yukino=

 

 

 

「・・・キ・・・ユキ?」

低めのよく通る声が聞こえて。
寝ている私にはかなり耳障りだ。 

「雪野、雪野さ〜ん?ユッキちゃ〜・・・」
「あぁ〜、うるさいっ!!」 

しつこく何度も何度も私の名前を呼ぶから、私、思わず目を開けて怒鳴る。
でも・・・目を開けるの、ホントはイヤだったんだよね。
だって私の目の前にいる男はもの凄く綺麗な顔をしてるから。
朝っぱらからそんな顔を見せられたら心臓に悪い。 

「ったく・・・。こうゆうのいい加減やめてよね。何度言ったらわかるのよ?」
「いいじゃん。別にオレの顔くらいどってことないだろ?」 

――どうってことなくないから言ってんのよ。
心の中で私は舌打ちをする。 

「歩が私を起こしに来ればいいじゃない。普通に考えてそうでしょ?」
「だからさぁ、何度言ったらわかるんだよ?和哉に気を使ってやってんだよ」
「そりゃあ・・・そうだけど」 

和哉って言うのは私の一つ下の弟。
多分・・・っていうか絶対に歩のことが好き。
わかりやすすぎて憎めないな、我が弟ながら。
そして、歩とコイツ、湊は一卵性の双子だからそっくり。
二人ともホントに綺麗な顔をしてる。 

「起こしに来ない方がいい?」
「え、それは・・・困るっ!」 

いまいち煮えきらない私を見て、湊がいたずらっぽく言う。
私は思わず否定してしまった。
でも、ホントに起こしてもらわないと困る。
私と和哉は朝に弱い。
普通なら親に起こしてもらうべきなんだろうけど、今は両親共にオーストラリアに転勤してる。
決まったのが去年の7月。
お父さんだけ一足先に行って、私が高校に入ってからお母さんも向こうに行った。
この家には今は和哉と二人だけ。
まぁ、隣に湊の家があるしそんなに不自由はないけどね。
だから、湊に起こしに来てもらってる。
私達には目覚し時計なんて役にもたたない。 

「あ〜、でも可哀想、和哉」
「何で?」
「だってさぁ、起きたら目の前に好きな人がいるんだよ。驚くに決まってるじゃない」 

しかもあんなに綺麗な顔だから、尚更だろうな。
毎朝のことだろうか、絶対に慣れられないよ、普通なら。 

「・・・雪野は?」
「え?」
「雪野は、オレのこと見て驚かない?」
「そりゃあ・・・驚く、けど・・・」 

ふと、湊が少し真剣な瞳で私を見る。
私は少し面食らってボソリと応えた。
だって、さっき実際に驚いたし。 

「へぇ。じゃあ、雪野はオレのことが好きなんだ?」
「ばっ・・・!!何言ってんのよ!?」 

からかうような口調で湊が言うから、私は思わず大声を出してしまった。
そんな私を湊はおもしろそうに見ている。
・・・本当に好きじゃないもん、こんなヤツ。
驚くのはただ単に湊の顔が綺麗だからで。
それ以外の何でもない。 

「でも、和哉じゃちょっと歩は高嶺の花ってカンジじゃない?」
「雪野はそう思うのか?」
「ん〜・・・。まぁ、顔は悪い方ではないと思うけど、やっぱり歩はレベル高すぎでしょ」
「でも、結構まんざらでもなさそうなんだよな。・・・その前に歩は気づいてないと思うけど」
「・・・確かに」 

歩は超がつくほど鈍感な一面がある。
普段は冷静だし、すごく落ち着いてると思うけど色恋沙汰になると全くダメ。
小学校中学校と、歩に惚れてアタックしてきた男は数知れないけど、そのうち一つも歩は気づいてなかった。
そういうとこには無防備というか・・・。
それでまた和哉が子供っぽいから。
よくいる「好きな子はいじめる」タイプなんだよね。
まあ、和哉の場合は冷たくなるっていうか・・・。
いじめるとはちょっと違うけど。 

「和哉ももうちょっと素直になればいいのにね」
「だよな。あれじゃ、歩は絶対気づかねぇよ。あの鈍さは並じゃないからな」
「じれったいってさ、こういうこと言うんだね・・・」
「ああ・・・」 

何だかしみじみと言ってしまう。
だって、和哉が歩を好きなのはバレバレだし歩だって和哉に好意くらいは持ってると思う。
まぁ、歩の好意なんて弟に思ってるくらいのもんだろうけど。
しかも、今はまだ少し歩の方が背が高い。
私は和哉に抜かされちゃったんだけど・・・。
歩が168センチで和哉が165センチ。
今が伸び盛りだから、すぐに抜かすだろうけど背ぐらいは高くならないと男としてみてもらえないだろうな。 

「あー・・・何でオレ達があいつ等の心配してやんなきゃいけねぇんだろ」
「ほんっとに。やんなっちゃう」

そう言ってから私と湊は大きくため息をついた。

「さてと・・・パンとご飯どっちがいい?」
「ん〜・・・今日はパンがいい」
「OK。じゃあ、付け合せはサラダとスクランブルエッグくらいでいっか」 

料理は全部私が引き受けてるんだ。
これでもそれなりに料理はできる方だと思う。
毎日何にするか決めるのが大変だけど。
みんながおいしいって言ってくれるとやっぱり嬉しいし。
私と湊は他愛もない話をしながら下へ下りていった。

 

 

そう。
これが私達四人の日常。
何年も変わらなかった日常。
でも・・・これがもし変わってしまったら。
私たちはどうなってしまうんだろう?

 

 

 

第1話

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