君がいて、僕がいて  〜Vol1 日常が変わる時〜

第三話     =Side Minato=

 

 

ぼふっ
派手な音をたてながらオレはベットへ飛びこんだ。 

やばい。
見られた。
雪野の姿は見てないけど、あの怒ったような閉め方は絶対雪野だと思う。
あ〜あ・・・。
オレって何でこんなにタイミング悪いんだろう。
よりによってあいつが来てた時なんて。 

さっきオレと一緒にいた女は他校のやつで、中学の同級生だった。
田中由美。
ずっとオレにつきまとってきた女だ。
何度断ってもあきらめないで寄ってくる。
最初は、そんなに好いてくれてるんだ、なんて思ったけど今は鬱陶しいだけだ。
ただ告白してくるだけならまだいい。
あいつはスキンシップが激しすぎる。
その現場を他人に見られるとみんな誤解するから困るんだよ・・・。
しかも雪野だろ。
あいつ、すぐ勘違いするからなぁ・・・。
明日が恐ろしい・・・。
オレはそう思って大きく息を吐き出した。 

トントン 

「入って、いい?」
「おお」

ノック音と共に聞こえた声は、和哉のものだった。
オレが返事すると、和哉が遠慮がちに入ってきた。

「何、雪野に追い出された?」
「うん。明日、バレンタインだろ。歩と作るっぽいよ」
「あ・・・」

そうだ、明日はバレンタインだ。
忘れてた・・・。
オレの一年で嫌いな日ワースト3には入る日。
本当に、女の力は恐ろしい。
朝から晩までつきまとわれるとさすがに疲れる・・・。
ただ、雪野と歩からだけは別だ。
昔からくれてたし、押し付けがましくない。

「湊さぁ、バレンタイン嫌いだろ?」
「ああ・・・まあ、好きではない」
「お前それ贅沢だよ。嬉しくないの?気持ち、もらって」

嬉しい・・・?
そう思ったことって、ない気がする。
悪い気はしないけれど、食べきれないし。
チョコは大好きだけど、一度にあんな大量には食べる気はしない。
それに貰っちゃうと悪いと思う。
チョコにはくれる子なりの気持ちがこもっているはずだから、好きでもない子の気持ちを軽々しく受け取っちゃいけないんだ。
これは昔からずっと変わらない、オレの考え。
そりゃ、断ったチョコの行方を思うと申し訳ないけど、これだけは変えられない。
オレは本当はつきまとわられることよりチョコを断った後の女の子の顔を見るのが嫌なんだ。
泣き出しそうな顔をオレに向けられると罪悪感でいっぱいになるから。
時々『中岡さんが好きなの?』とか聞いてくる子もいるから、参る。
オレ自身もよくわかっていない気持ちを聞かれても答えられないのは当然だ。
雪野のことは確かに好きだけれど、どういう好きかはわからない。
でもあいつの隣はすごく居心地がいい。
それは確かなんだけどなぁ・・・。

オレがそんなことを考えながら黙りこくっていると、和哉が不満そうな顔で見つめてくる。
和哉ももてないわけではないし、むしろもてる方だろう。
ただ、やっぱり本命か・・・。

「なあ、お前歩のこと好きなんだろ?」
「ばっ・・・ばか、何言ってんだよ!?」

オレが好奇心から問いかけると、和哉は即座に顔を真っ赤にして怒鳴った。
・・・おもしろい。
和哉はすぐに顔に出るからなぁ・・・。
まあそれがこいつのかわいい所でもあるんだけれど。
でもこのままじゃ歩には男としてみてもらえないだろう。
小さい頃からずっと一緒にいるぶん、弟として見る部分がかなり強い。

「・・・まあ、とりあえずは身長だな。っつーかお前伸びるの遅くねぇ?」
「う、うるさいなっ!湊がでかいんだろっ!!」
「だってさぁ、確か新人戦の選手登録には155cmってかいてあったよな?今165cmだろ?2年で10センチしか伸びてねぇじゃん」
「う・・・」

和哉は成長期にしては伸びるのが遅いと思う。
オレなんかも中3の夏には175センチくらいあったし・・・。
雪野も女にしては結構背の高い方だから、小さいままってことはないんだろうけど。

「・・・オレはそんなこと話にきたんじゃなくてさぁ・・・」
「は?だったら先に言えよ」
「湊が言わせてくれなかったんだろっ!!」

オレは思わず笑い声を漏らしてしまった。
和哉をからかうのはかなり面白い。
素直な反応するから、ついついからかってしまう。
そんなオレの笑いのせいか、和哉はまだ赤い顔をさらに不機嫌にさせながら、言った。

「・・・湊、姉ちゃんに何かした?」
「え・・・」

どきっ
オレの心臓が大きく鳴る。
・・・心当たりはおおいにあるから。

「あれは結構怒ってたから。学校では普通だったから、そうなったら湊しかないだろ?まったく、姉ちゃんを怒らせると一番被害に遭うのはオレなんだからやめろよなぁ」
「・・・・・・」

和哉の言葉の最後の方は、オレの耳には入っていなかった。
雪野を、怒らせた。
原因は田中とのことだろう。
それ以外に思いつくことがない。

(本気でやばい・・・)

オレはどこか雪野に弱い所があるのを自覚している。
だから雪野を怒らせたってことは、オレにとって絶対的不利な状況なのだ。
あまりの気の重さに、オレはため息をつくことしかできなかった。




明日が、決戦の日。






第三話
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